特別攻撃隊は志願兵による参加が建前だったそうです。
ある特攻隊員は、このように言っています。
「特攻作戦を行う部隊へ志願するように命じられて、その通りにしただけのこと。仲間があんな形で次々に死んでいくとは思わなかった」
作家・保阪正康さんの著書『昭和史七つの謎と七大事件 戦争、軍隊、官僚、そして日本人』(角川新書)より
わたしがまだ小学生のころ、戦闘機漫画ブームがありました。
いわゆる戦争の悲惨さを謳ったものではありません。作中には撃墜王なるものも登場し、軍人は勇ましく、戦闘機は高性能で美しく、むしろガンダムやエヴァンゲリオンの世界に近いものでした。(違う見方の人もいる)
それでも人は死んでしまうのです。戦争ですから。
フィクションだろうが、そこを描くのも大切なつとめです。

0戦はやと 作/辻なおき
1963.7~1964.12 週刊少年キングにて連載
腕利きの撃墜王をあつめた精鋭部隊、爆風隊の活躍を描いた作品で、撃墜した敵の戦闘機の数を機体に刻み付ける、などといったシーンも出てきます。
主人公の東隼人一等飛行兵曹は爆風隊入隊までの撃墜数は64機。隊一番の人気者で父は日本の撃墜王と呼ばれる東大佐。
物語は戦争末期まで描かれないまま終わっているので隼人たちのその後は分かりません。まだ、あどけなさも残る隼人、生きていて欲しいです。
アニメにもなったこの漫画が当時の戦闘機漫画を代表するのではないでしょうか。
わたしも兄もアニメでこの作品を知りました。
アニメ化にあたって、戦争謳歌を子供番組でやるのか、との批判があったそうですが、観ていたわたし達は別に戦争を賛美はしませんでした。
戦争中、われわれの先祖たちは本気で勝てると思っていたのだ、と言うことが分かりました。戦争なんかしたくない。でも戦争があったことまで無い事にするのはどうかと思います。
アニメになった戦闘機漫画はこれだけでした。
ただ、日本の戦闘機と言えば ❝ ゼロ戦 ❞ という認識がバカ兄妹に刷りこまれました。

紫電改のタカ 作/ちば てつや 講談社漫画文庫
1963.7~1965.1年週刊少年マガジンにて連載
少年漫画の戦闘機ブームの中、連載を依頼されたちばてつや氏。
後にあまり気が進まなかったとご自身で語っています。
主人公の滝城太郎は ❝ あしたのジョー ❞ を彷彿とさせる見た目ハンサムなのに中々に気の強い男。ちょっと女ゴコロをくすぐります。
滝城太郎一飛曹がくりだす ❝ 逆タカ戦法 ❞ なる敵機撃墜法に編集者が乗り気になり、
「この調子でジャンジャン敵機を撃ち落としてください」との注文を出します。
しかし、そこは、ちば氏。
「そんなものは描きたくない」
と断固拒否。その後、お話は死と隣り合わせの戦争の中で生きる若者たちの苦悩を描く方向へ進んでいきます。
人間を緻密に描く、ちばさんらしいエピソードです。
作中登場する ❝ 紫電改 ❞ は日本海軍最後の希望として配備された名機だそうです。

無敵の翼 作/望月三起也 少年画報
単行本 1968年 サンコミックス、朝日ソノラマ
ワイルド7でお馴染みの望月三起也さん、アクションものがお得意ですが、戦闘機ものも沢山描いておられます。
人間を描くのももちろんですが、兵器や銃などに大変くわしく、なんと戦闘機主眼でのお話も描きます。
ザ・男の子な方で、サッカーやアクション、武器などに対する愛情があふれていて、そんな視点もある、ということをお知らせしたくて選びました。
彼も戦争賛美はしていません。
戦闘機には搭乗する人間ドラマがつきものですが、戦闘機そのものに対する愛着を見せる方も多々おられるのです。
なぜ戦争が始まったか。
戦争を一方的な見方でだけ紹介しては全てが見えません。
しかし、その後日本の戦闘機は生産がおいつかなくなり減っていきます。
戦果も得られない。そこで登場したのが戦果が見込まれた航空機による体当たり戦法です。
戦死前提の神風特攻隊です。
そんな状況で戦争に勝てる見込みなどない。
当時特攻隊は志願兵がなるものでしたが、お馴染みの同調圧力です。志願するしか道がない状況に兵隊さんたち(厳密には士官)は追い込まれていきます。
普通の兵隊に選ばれた時点で死亡確率は高いですが、特攻隊は特別です。
特攻隊に選ばれる事は死刑宣告と一緒です。
心を隠して、逝った若者たちを思うと泣けてきます。
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