ミステリーの古典、❝幻の女❞の冒頭はこんな感じで始まります。
夜は若く、彼も若かった。が、夜の空気は甘いのに、彼の気分は苦かった。
「The night was yong, and so was he. But the night was sweet, he was sour.」
ウィリアム・アイリッシュ著 幻の女/稲葉昭雄訳
1942年に発表された古いミステリですが、名文ですね。
男が妻と喧嘩をして夜の街を彷徨うシーンです。
名文や名セリフを読むと誰かに伝えたくなるのは何故でしょう。
こちらは読んでもないのに冒頭文だけ知っている小説。
今日、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私には分からない。
不条理小説というジャンルだそうです。
不条理にもほどがある。ママンが死んだのが昨日か今日か分からないとは。
ウフフ。フランス人、お母さまのことをママンって呼ぶんですね ( 偏見 )でもちょっと真似したくなるフレーズです。
死んでもないのに死んだ死んだ言われる、そこらのママンが大迷惑です。
そして、「太陽が眩しかったから」という理由でアラビア人を殺害してしまうのです。※厳密にはもっと色々ある。
不条理にもほどがある ( 二回目 )
冒頭の名文と言えばこちらも。
そのころ、東京中の町という町、家という家では、ふたり以上の人が顔をあわせさえすれば、まるでお天気のあいさつでもするように、怪人「二十面相」のうわさをしていました。
小学生のころ夢中になって読みました。が、すでにわたしの時代でも古典でした。
こんな古い本、読んだのはクラスでもわたしだけです。この面白さ一人で抱えているのは勿体ない。感動を分かちい合いたかったのに。その後TVドラマ化されてやっと相手をしてもらえました。
でも、違うんですよ。あの雰囲気。TVで再現は出来なかったんですよ。
文章を読んで驚いたのは、当時のいいところのお子様たちはご両親に敬語をお使いになるのです。地の文章も敬語です。それに比べたら今のお子様たち、全員チンピラです。
挿絵もついていましたが、読み物が主体です。❝ 怪人二十面相 ❞ は小学生向け読み物なのです。昔の小学生は、漫画ではなくこんな小説を日常的に普通に読んでいたんですねえ。
高畠華宵みたいなエロい絵を描く挿絵画家もいたので、環境も凄いです。
当時の小学生おそるべし。
昭和初期の小学生と知性で渡り合えるでしょうか。
小学生のころ、友達の部屋に世界文学全集が置いてありました。
もちろん百科事典も。
大きな家の書棚の定番でした。お金持ちの象徴です。
彼女なら読んでいるかも。
大らかなタイプの人で「本棚の本、一冊も読んでない」と堂々と言われました。
乱歩どころか、世界文学全集全滅です。
母親をお母さまとは呼びません。勿論、ママンとも。
友達がまったく宿題をやってこないまま登校し、直前に写させてというので私のを写させてあげたが、見開き2ページ分しか間に合わず、そのまま先生に写した部分を開いて提出。私もハラハラ見てたが先生はそこにハンコを押して返してくれた。先生もいい加減だった…夏
— toyoda 順子 (@1VjUwrZ2gS7Q8hc) August 31, 2022
↑ 夏休みの宿題をやってこなかった、この友達です。
頭は良かったのですが、早寝早起きの健康優良児だったので本なんか読まないのかも知れません。
わたしの駄文と比べるとわかるのですが、これらの名文は短い文章の中にこれからを想起させる言葉が散りばめられています。
表面上だけではなく、含みが必要なんですね。
書けるものなら名文書いてみたいものです。